PLDDとは
PLDDについて
PLDD(Percutaneous Laser Disc Decompression)は、椎間板の髄核にレーザーファイバーを刺し、レーザーを照射して椎間板ヘルニアを治療する方法です。照射した髄核に空洞ができると、神経根を圧迫していた髄核が空洞になった部分へ引っ込むため、神経の圧迫がなくなり痛みの軽減を実現します。
従来の切開法を用いた腰椎椎間板ヘルニアの手術では、入院&リハビリテーションに最低でも2~3週間ほど必要です。頚椎椎間板ヘルニアの場合だと4~6週間もかかりますが、PLDDの登場によって治療にかかる時間が短縮できるようになりました。原則として2日間の入院は必要となりますが、術後の状態によってはその日で退院することが可能です。
PLDDの入院から退院までの流れ
- ●準備:局所麻酔や点滴を打って手術の準備を実施。
ストレッチャーで手術室へ移動
- ●手術:手術を実施。(10~15分)
- ●術後:病室へ戻り、術後1~3時間ほどベッド上で安静。
その後、医師による診察を受け、許可が出たら退院。
1週間後・1ヶ月後に診察。術後の状況・痛み・しびれをチェック。
1回のPLDD治療で症状が改善されない場合は、1ヶ月ほど経過を様子見します。その後、もう一度PLDDを実施すると、症状が軽減するケースも少なくないそうです。
PLDDの仕組み
椎間板ヘルニアの治療法PLDDについて仕組みをまとめてみました。
PLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)について
PLDDは組織蒸散と呼ばれる方法を利用した、椎間板ヘルニアの治療方法です。わずか1mmの極細の針とレーザーファイバーと呼ばれる光ファイバーを使って治療が行われます。極細針の中は空洞となっており、そこにレーザーファイバーを通過させレーザー光を照射。椎間板ヘルニアの原因である髄核を蒸散させることで神経の圧迫を減らします。
PLDDに使われるレーザー
PLDDにはレーザーファイバーと呼ばれる細長くて先端が丸いレーザーが使用されています。乱反射した光は円形部分の先端に集まり、真っすぐ光を放ちます。円形の光線はしっかりと患部に届き、痛みの原因である髄核を蒸散させることができるのです。
組織蒸散とは?
PLDDの仕組みのかなめである組織蒸散とは、組織に高熱を与えることにより組織の中に含まれる水分を蒸発・蒸散させることです。レーザーを吸収した組織の水分は1500度近い熱をもち、一瞬のうちに組織を消すことができます。
PLDDの安全性について
PLDDの安全性は極めて高いといえます。患部に対し、針を刺してレーザーを通し髄核を蒸散させるため、メスを使った手術よりも負担がかかりません。医師の中には、レーザーを使うことに否定的な人もいるようですが、どのような手術・治療法においても否定的な意見を持つ人はいます。肯定的な意見をもつ医師のなかには、可能ならPLDDを最初の治療にもってきたほうがいいと考えている人もいるようです。
PLDDはいつ頃からあるのか
PLDDの始まりは1986年のオーストラリにさかのぼります。グラーツ医科大学脳神経外科(オーストリア)で、Daniel Choy氏とPeter Ascher氏が腰痛治療を目的に生み出しました。PLDDの効果が実証されてからはアメリカ・ヨーロッパに広がり、90年代に入って日本に導入。90年代前半、当時の日本ではLOVE法・MED法などの外科的手術が主流であったこと、保険適用ではなかったころからPLDDがすぐに普及することはありませんでした。しかし、90年代後半に入ると民間の医療機関で導入されはじめ、その評価の高さから徐々に治療を行なう施設が増えてきたのです。
PLDDの特徴
患者さんの身体に負担がかからない
PLDDは極細針は患者の背中部分より患部に向かって差し込まれるため、メスを使う手術よりも負担がかかりません。従来の外科的手術では、安静・リハビリ期間を考えると約1ヶ月の入院が必要となりますが、PLDDなら日帰りで手術を受けることが可能です。痛みの原因である、椎間板から出た髄核(ずいかく)をレーザーによって蒸発させて痛みを軽減するPLDD。画期的な治療法ではありますが、椎間板を元に戻す方法ではなく、外科的手術以外の椎間板ヘルニア治療で十分に効果が得られなかった方に行われることが多いです。
椎間板を形成する髄核と線維輪
髄核は椎間板のクッションに相当する組織です。柔らかい組織で、通常は線維輪と呼ばれるものに囲まれています。椎間板が強い衝撃を受けたり、加齢によってダメージが蓄積していくと、線維輪が破れてしまうことも。そうなると、線維輪に囲まれていた髄核が飛び出してしまいます。そのような状態が椎間板ヘルニアです。椎間板の近くには神経や骨などが集まっており髄核がそこに当たるため、
神経痛や麻痺などを起こしてしまいます。
なぜPLDDで痛みを軽減できるのか?
椎間板ヘルニアは、椎間板内にある髄核と呼ばれるゲル状の物質が外に出てしまった状態のことを指します。この髄核が椎間板の近くにある神経を刺激してしまい、痛みの原因に。PLDDは髄核にレーザーを照射して髄核の一部を蒸発させます。髄核が蒸発したことにより空洞ができ、椎間板が収縮。椎間板が収縮することによって、神経の圧迫が治まり痛みや痺れを改善することができるのです。
出血が少なく手術時間も短い
PLDDの手術ではほとんど出血することがありません。また、手術時間は1か所当たり約15分と短時間で済みます。重度の椎間板ヘルニアにはあまり向きませんが軽度であれば、80%の改善率が見込めます。まれに炎症や感染症を引き起こす可能性があるため、開腹するまでに時間を要する場合も少なくありません。人によっては複数回の施術が必要になる場合もあるので、その点はよく医師と話し合ってどうやって治療を進めていくか確認しておきましょう。
PLDD治療は幅広い年齢に対応している
PLDDは12~90歳と幅広い年代の人の治療に対応可能です。椎間板とその周りにある組織に影響を与えることがなく、身体に負担がかかりません。また、局所麻酔での手術になるため、高血圧・腎障害・糖尿病など、麻酔の影響が出やすい患者さんでも受けることが可能です。長期的な入院やリハビリなどの必要もないため、体力に自信がないという人でも安心して治療を受けることができます。
PLDDの治療内容
PLDD治療の手順について解説します。
手術を受けるなら前もってX線・MRI画像を撮っておく
PLDD治療を受ける場合には、X線・MRI画像が必要になります。持っている場合と持っていない場合では診察手順が変わるため、気を付けましょう。なお、画像は撮影日から3ヶ月以内のものを使用します。
画像をもっている場合
X線・MRI画像を持っている場合は、手術を受けるクリニック・病院にもっていきます。そこで医師が画像をみながら、痛みやしびれなどの症状が本当に椎間板ヘルニアによるものか確認するのです。ほかの病気でないかを確認したら、次はPLDD治療ができるかを判断していきます。
画像をもっていない場合
医師が椎間板ヘルニアの症状について詳しく聞きます。その後、PLDDが適用できるか判断。画像を持っていない場合の受診でできるのは、問診までです。後日、紹介された医療機関で詳しく検査を受ける必要があります。
診断方法
診察では腕や下肢の感覚を診ます。患者さんはまず診察台に横になります。医師が患者さんのひざを伸ばしたままの状態で上下させる下肢伸展拳上試験を行ない、足の力が弱まっていないか診断するのです。その後、X線撮影・MRI検査を行ないます。
手術の手順
- 1.患者は痛みがある部位を上に向けて、横になります。医師はX線透視を確認しながら椎間板の位置を把握。針を通す位置にマーキング・消毒を行なった後に局所麻酔をします。
- 2.麻酔が効いて来たら、極細針を刺入。椎間板以外の神経や臓器などを傷つけないように、厳密に確認しながら患部まで針を届けます。
- 3.針が患部まで届き、正しい位置に刺さっているか確認できたらレーザーファイバーを針の中に挿入。患部に届いたのが確認できれば、レーザーを照射します。
- 4.レーザーが照射されるとピーっという音が聞こえます。1秒間照射→1秒間休み→1秒間照射が繰り返されて、手術は進んでいきます。
- 5.手術は15分ほどで完了。針を抜いた後の肌は、注射跡がありますが出血はほとんどありません。消毒を行なって、傷テープを張りコルセットをします。コルセットは1~2週間ほど装着します。
- 6.術後の処置を終えた後は1~2時間ほど回復室で休み、問題がなければ帰宅となります。
PLDDで行った治療は、傷口の大きさがわずか1mmとかなり小さめ。レーザー治療のため外科手術と比べて身体にかかる負担が少ないのが特徴。入院する必要はなく、PLDD治療を受けてその日のうちに帰宅できます。椎間板ヘルニアを無傷で治療するというわけにはいきませんが、PLDDはヘルニアの治療方法の中で最も負担を抑えた治療法であることは間違いないでしょう。
手術は局所麻酔で行なわれる
PLDDは局所麻酔での手術となります。局所麻酔は感覚を感じる神経を一時的に麻痺させることで、痛覚を無くす麻酔のこと。全身麻酔に比べて全身に及ぼす影響がすくないため、身体にかかる負担が少ないといえます。また、意識を保ったままPLDDを受けることができるため、手術中の様子を把握することや何かあった場合意思表示をすることが可能です。全身麻酔よりも安価なので、その分金銭面の負担も少なくなるといえるでしょう。
手術直後について
PLDDを受けて2週間は患部を保護するためにコルセット(頚椎はネックカラー)を装着する必要があります。そのため、手術を受ける際の服装はコルセットを装着しても問題のない、ゆとりのある服装できましょう。身体にぴったりと密着するような服装は避けた方が無難です。人によっては、コルセットの圧迫により痛みを感じることがありますが、その場合は医師に相談して痛みの少ない方法を考えてもらいましょう。日帰り手術が可能なPLDDですが、手術当日はなるべく安静にしておくことが大切です。
手術直後の生活範囲
- ・手術当日…なるべく安静にしておく
- ・1日後…安静にしておくことが大切、シャワーを浴びることが可能
- ・2日後…普段どおりの生活が可能、入浴もできる
- ・3日後…デスクワークの方なら職場復帰することが可能、飲酒も可能
- ・1週間後…ゴルフや水泳などの運動が可能(激しい運動はNG)
従来の手術方法との違いについて
切開手術や内視鏡下手術は身体を切る必要があり、全身麻酔が使用されます。手術による患者さんの身体への負担が大きく、入院することになります。入院日数は個人差がありますが、約3週間程度かかることも。また、手術を受けたとしてもリハビリや検査のために、通院する必要がでてきます。
炎症・感染症について
手術を受けた人のなかには、まれに熱刺激によって椎間板の炎症や神経の炎症が起こる場合があります。これらの症状を引き起こさないようにするには、レーザー機器や治療室などの衛生管理がきちんとされているクリニックを選ぶことが大切です。また、クリニックによってはPLDD治療を行なう前後に、抗生剤の服用をお願いするところもあります。もしも、椎間板ヘルニアの症状が軽度~中度であれば、PLDDを選択したほうがよいでしょう。
PLDDの改善経過
PLDDを受けた場合、髄核の減少が確認できるのは1~3ヶ月程度です。髄核が引っ込んでくるのに合わせて効果の出方も違ってきます。当サイトの監修をしている伊東クリニックでの改善事例を見てみると、手術直後にしびれや痛みなどが取れたという人の割合が約40%、術後1週間で痛みやしびれが取れた人が約20%、1ヶ月で取れた人が約5%でした。重度のヘルニアの人や患者さんの体質によっては、半年ほどかけて症状が緩和するケースもあるようです。手術自体は日帰りで受けることが可能なので、制約はありますがすぐに普段の生活に戻ることができるでしょう。
PLDDによって椎間板ヘルニアが悪化することはある?
PLDDによってごくまれに椎間板ヘルニアが悪化してしまう人もいます。原因としては、神経根の浮腫みにより、痛みやしびれが起きている可能性があるようです。もしもPLDDを受けて痛みやしびれが治らない場合は、治療を受けたクリニック・病院にすぐ相談しましょう
忙しい人に向いている治療法
PLDDは手術時にメスを使わないため、身体に大きな傷が残らないというのがメリットとして挙げられます。仮に傷跡が付くとしても、針の穴程度で数日もしたら癒えてきます。また、外科的手術に比べて、日帰りあるいは1泊2日の短期入院で済むため、社会へ早く復帰することが可能です。仕事をしている方やプライベートが忙しい方にPLDDによる椎間板ヘルニアの治療は有効だといえるでしょう。
頚椎椎間板ヘルニアの症状が重い人には向かない
片足もしくは両足の軽い痺れや麻痺などの症状が出る、比較的小さなヘルニアならPLDDは適応されます。しかし、強い下肢の痛みやしびれ、脱力などがある場合の治療には向かない場合も。その際は、外科的手術の方が優先されます。すべての椎間板ヘルニアに対してPLDDは有効というわけではないようです。
金銭的な負担は大きい
PLDDは残念ながら保険適用の手術ではありません。そのため、費用がかかります。国の保証制度である高額医療費の適用外になるのが難点です。しかし、医療費控除の対象にはなります。また、生命保険に加入している場合、手術給付金を利用することも可能です。PLDD治療を費用の面で諦めているという人は、クリニックや病院に相談してみるといいでしょう。
PLDDの位置づけ
PLDD治療は薬物療法・理学療法・ブロック療法と外科的手術の中間に位置する療法と言われています。外科的手術に比べて、適応できる範囲は狭いですが、治療成績がとても優れているのが特徴です。薬物療法・理学療法・ブロック療法を試してみてたど、あまり変化がなかったという人はPLDDが適用できるか、かかりつけのクリニック・病院で確認してみるとよいでしょう。
PLDDの現在の状況
PLDDは椎間板ヘルニアを発症して間もない患者に、有効な治療方法として知られています。ヘルニアが重症化している場合(靭帯を突き破って脊柱管に椎間板がこぼれ落ちてしまっている状態など)は、レーザー治療の効果が出にくいことも。治療が有効であるかは医師による判断が重要となってきます。
またPLDDは医師の経験や技術力によって治療効果に大きく差が出ることも。椎間板ヘルニアの治療を受けるなら、ヘルニア治療の医師や専門的に椎間板ヘルニア治療を行なっているクリニックを選ぶことが大切です。
PLDDの治療に適している症状
PLDD治療は以下の症状に対して有効と言われています。
- ・一定期間の保存治療(手術以外の治療)を受けたが効果が出ていない方
- ・坐骨神経痛の症状が6週間以上続いている方
- ・脚部のしびれや痛みがある方
- ・姿勢や咳によって痛みを伴う方
上記に該当している場合は医師に相談して、PLDD治療を検討してみるのもいいでしょう。
レーザー治療を受けた後の傷跡はどんなもの?
従来の治療法よりも傷跡が目立たない
レーザー治療を受けた後は傷跡が目立たなくなります。従来の治療法は皮膚を切開して神経を圧迫している部分を取り出すのが一般的で、術後は30~50mmほどの目立つ傷跡が残っていました。
内視鏡を使用したヘルニアの摘出手術は内視鏡を入れる部分のみなので切開する方法よりも傷跡が小さくなります。それでも指1本分(16~20mm)ほどの傷跡ができました。
レーザー治療の場合は、レーザーファイバーを通す穴しか開けないので直径0.4mmほどの傷跡で済みます。治癒後も目を凝らさないと見えないほどです。傷跡の範囲は、これまで提案されてきた椎間板ヘルニアの手術よりもはるかに小さい傷だけで収まります。
傷跡を落ち着かせるための入院日数が少ない
治療後の傷跡を落ち着かせるための入院日数が少なく済むのもレーザー治療のメリットです。皮膚を切開する方法では約21日(3週間)の入院日数を要していました。内視鏡を使った手術でも最長で7日間が必要です。最短でも2日間は入院しなければなりませんでした。
レーザー治療の場合、症状の度合いによっては手術当日に退院、帰宅できます。1泊2日を提案するクリニックもありますが、患者さんが希望すれば治療後3時間の安静の後に退院可能。遠方から手術を受けに来た患者さんが1泊する程度で、近隣住民であれば当日に帰宅できるケースがほとんどです。